隙間に挟まる話

すきま風に吹かれて生きています。

湿った米袋

湿った米袋

 

100均に行くと、つい排水溝ネットとコットンパフをまとめ買いしてしまう。

そういう人、他にもいるよね?うんうん、いるはず。

 

引き出し、たぶんまだ在庫あるよ。

確認してみて、今すぐ。

ほら、そこにあるじゃん、ほら!

もう、なんでもお母さんに聞かないの!

 

 

今日こそ何も買わないと決めたのに、

セリアの光に吸い寄せられるように足が動いた。

私は蛾かもしれない。

 

店内を一周したけど、目新しいものは特になくて。

なんとなく、いつものフローリングシートだけ買うことにした。

 

激落ちくんシリーズのウエットタイプ。

此奴、とっても優秀なんだけど、

がめつい女に見られたくなくて、5人だけ連れて帰ることにした。

 

私はキャッシュレス派なの。こう見えて。

想像を裏切る女で悪かったね。

 

このセリアは、キャッシュレス対応はセルフレジだけ。

現金専用の通常レジには、若くて綺麗な女の子が

暇そうに、レジ台を雑巾で撫でていた。

いや、撫で繰り回していた。

 

その視線を背中に感じながら、

私は彼女の目の前のセルフレジへ。

意志の強い、凛とした女性って、こういう時に現金なんか出さないもんね!

 

お会計。

マイバッグを忘れた私は、レジ袋を購入。

サイズを選んで、ビリっと切り取る。

 

……でかっ!

間違った!

これ、一番大きいサイズじゃん!

ちぎっちゃったよ!戻せないじゃん!

 

この袋にこの量はない。

「大は小を兼ねる」って言うけど、

米袋がメイクポーチを兼ねるわけないだろ!

 

言いに行く?恥ずかしくない?

憧れの女性、台無しじゃない?

さらさらロングで、ラベンダーの香りがしそうな女になりたかったのに!

 

 

「同じ商品がスキャンされました」

「同じ商品がスキャンされました」

「同じ商品がスキャンされました」

 

 

やめて!

うちの床の汚れを、わざわざアナウンスするんじゃないよ!

 

しかも激落ち連中、意外と重い。

白い米袋の底に、続々と沈んでいく。

手に持った袋が、ぐいっと引っ張られて腕の先でぶら下がる。

 

このサイズ感、どう見てもサンタじゃん!

配ってるの、湿った雑巾なんだけど!

 

みんな、レジ横のライターとボタン電池を真剣に眺めてて!

お願い!

 

しかも袋の中をよく見ると……

え、激落ちくんじゃない?

……なんか違う。

 

 

 

凄腕君。

 

 

誰……?

いや、誰だよ!

 

いや、凄くないよ!何も凄くないよおまえは!

むしろ紛らわしいよ!

おまえが凄腕名乗るなら、まずは袋に落ちるのやめろ!しがみつけ!

 

 

汗で髪がチリチリしはじめた。

さらさらロングもラベンダーの香りも、どこかへ消えていった。

 

 

だって私、40半ばだし!

白髪も交じってるし!

ラベンダーより金木犀の香りが好きだし!

米袋の中には、凄腕君が沈んでるし!

雑巾配るサンタのまま、楽天カード出してるし!

 

 

……あ、ちがうわ。

 

 

 

 

これ、マイナンバーカードだったわ。

 

お母さん。