隙間に挟まる話

右耳を信用するな、左が心臓だ。あなたの隙間に、そっと挟まります。

変・見返り美人

 

新年早々、首が痛い。


寝違えたわけでもないし、
ムチウチになったわけでもないし、
“だっふんだ”の練習を鏡の前で100回キメたわけでもない。


じゃあ何で痛いのか。
聞きたいよね?聞きたいでしょ?
聞いて、ねぇ?
耳の穴スプーンでかっぽじって聞いて?



お正月の集まりにダナの実家へ。
豪華なおせち、甥姪たち、そして適度にくたびれた大人たち。


部屋はワイワイ賑やかで、
隅っこで割り箸袋を折って、箸置き作るしかない私。
しかも下手。コミュ障ここに極まれり。


甥っ子は昆布巻きの真ん中に爪楊枝刺して、
コマみたいに回してるし、

姪っ子は黒豆を
羽子板の玉代わりにして飛ばしてるし、


うわー、今時の子って食べ物で遊ぶんだなぁ…


ってツッコむつもり満々だったのに、
……みんなスマホ見てた。


ねぇ、せめて福笑いでもしない?
コミュ障でも笑顔作れるから。



大人たちは全員テレビにかじりついて駅伝。


私の席だけテレビが真後ろ。


なんでだよ!
私だけ扱いおかしくない!?北枕扱いかよ!


そしていつも席固定なのはなんで……。


やっぱり、これ……
嫁いび……いや、気のせいだよね?
気にしてないふりするけど。


テレビを見るには
体ごとテレビに向けるか、重箱を諦めるか。


重箱は無理。
カニがある。だし巻きがある。数の子がある。
背中向けたら確実に誰かに食べられる。


「ばさ美うしろーー!」って教えてくれる気の利いた人間はここにはいない。


私の食欲は守らねばならない。


テレビも見ないわけにはいかない。
みんなの視線が重なる場所で、食い意地はってるのは恥ずかしい。


だから私は、首だけ180度回転させて
チラッ!パクッ!
チラッ!モグ!


「メンフクロウじゃねーんだから!!」
って心の中で自分に3回つっこんだ。



駅伝が盛り上がってきたので、
「よし、とうとう体ごとテレビに向けるか」と振り返って気づいた。


さっきまで首を回すのに夢中だったから、わからなかったけど、
この部屋、暗っっっ……!?


電気ついてないじゃん。
しかも東側のカーテンしか開いてない。他の窓は遮光カーテンフル装備。
納戸に住むのに憧れてるのかよ、この人たち。


テレビとスマホの光だけで照らされ、
全員、顔が死者の色。


これじゃ、夜行性のメンフクロウだって、
縦につぶれて“棒フクロウ”になるレベルだよ。怖すぎ。


みんなこの薄暗さ気づかないの?
今どきのデジタル人間って明暗も感じないの?


そういや、おせちさっきから味おかしい。
暗すぎて、適当に拾って食べてたわ。
気づかない私も私だよ。


でもね、急に腑に落ちたのよ。


あ、ここ映画館って設定なんだ。
街の小さな劇場のつもりなんだ。


みんな──数の子みたいに身を寄せ合いながら鑑賞してたんだ。


……でもさすがにテレビちっさくない?
ドラレコモニター立て掛けてるのかと思ったわ!


そんなに駅伝って熱中するもんなの?
箸袋でおリボン折るより大事なの?


こっちは人数分、きれいに折って並べてんのに!
見てよこの労力!


目悪くなるよ、子どもたち!
さっきから酢ダコをガムみたいにクチャクチャしてる場合じゃないのよ!


闇鍋ならぬ、闇お節。
こんな家族の団らん、望んでない。


ねぇ、お義父さん。
照夫って名前なんだからもっと照らしてよ!
名前負けしすぎだろ。


てか照夫さん、今日一度も声出してないじゃん!
“照”って照れの意味だったの?



帰り際、義母が「また来年もね」と言ったけど、
私の首はもう180度後ろを向いたまま固まっている。


ねぇ、どこに向かって話しかけてんの?
私ずっと後ろ見てるよ?


私が見返り美人だからって、見返らせたままにしないで!
暗いし危ないんだからね!


暗すぎて、眼精疲労のオマケまで付いてきちゃったよ。

……。


もういいもんね!アイーンだもんね!


来年は背中に顔描いて来ちゃうもんね。
振り向かなくてもテレビ見てるフリできちゃうもんね。


この背中で福笑いやるがいいさ!
この広くて曲がった背中を見て笑うがいいさ!


……って、それじゃ向き逆じゃんね?
背中側には最初から誰もいないって?


ほんとだわ。私はバカだった。


そうです、私が変なおばさんです。


はっはっはっは!いーひゃっひゃ!
…笑いすぎて首、いった。


……あ、耳ほじくりすぎてない?
スプーンが曲がってるよ?


もうやめよう。
はい、この割り箸でも握って深呼吸して?


……栗きんとん食べる?


あ、これ芋の甘露煮だ。
暗くてわからなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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